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最終バス乗り過ごしたあとに

アラフォーのおっさんが書くあれこれ。

リンドバーグ その1(89年・結成からブレイク前夜)

どうも、こんにちは。お久しぶりです。

今年に入ってまだ1記事しか書けてないのに(しかもそのもう1つ前からは半年経っている…)もう5月になろうとしている事に恐怖を覚える今日この頃です。しかも平成も終わっちゃうよ。来月から令和ですとか言われても違和感半端ないですね。

 

という事で今回は今年でデビュー30周年を迎えたリンドバーグについて数回に渡って書こうと思います。今回は結構長文になりますが自分の思い出と当時の記憶の中の情報を元に大人になった今の視点でのレビューみたいなものを加えつつ、細かく書いてみます。

 

リンドバーグと言えば自分が最初にハマったバンドで、初めて買ったアルバムも初めてのコンサートもリンドバーグでした。

きっかけは小学生の頃大好きで観ていたダウンタウンウッチャンナンチャンの伝説の番組「夢で逢えたら」でした。ちょうど中学に上がった春にオープニングがリンドバーグの「BELIEVE IN LOVE」で本人達も出演していたのを覚えています。



 

そして早速その曲を買いに行こうとCD屋に出向き彼らのシングルを探したものの、まだ小学校を出たばかりの小生は英語のタイトルが全く読めずどれが目当ての曲か分からなかったのです。取り敢えず新作コーナーにあったシングルを手に取り訝しみながらも購入、そして帰宅してラジカセにセットしてみると...

 

「ち、違げぇじゃん...」

 

不安になりながらも購入したのは「GLORY DAYS」という全く違うバラード。曲名違いどころかそのGLORY DAYSすら読めない無知な子供だった当時の自分にとってシングル1枚の900円は痛過ぎる損失だった…(だってまだ英語習いたての「アイアム・ナンシー」レベルだったから…)。でも救いだったのは曲が良くて直ぐに好きになった事。この曲は卒業した後に別れた彼氏の事を思う彼女の別れの歌なんだけども、

卒業証書と引き換えにした

思い出にさようなら

GLORY DAYS 失うものがあるから手に入れるものがある 

                                                                                                  (GLORY DAYSの歌詞より)

ちょうど小学校を卒業したばかりだったその頃の自分にドンピシャな言葉で(勿論恋愛云々とは無縁だったけど)、「失うものがあるから手に入れるものがあるかぁ、深いなぁ」なんて子供心にジーンと響いたのでした。

 

 

それから暫くしてCD屋に行くと今度は見た事のないシングルが目に入ってきた。しかもシールで「CX系夢で逢えたら・オープニングテーマ」と記されている。英タイトルが読めないという失敗を経たものの、やっと念願の曲を手にする事が出来たのでした。

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(余談) 後に知る事になるのだがBELIEVE IN LOVEはシングルカット曲で買いに行ったタイミングではまだリリース前だったためGLORY DAYSが最新シングルだったというのは間違いではなかった。あと勿論既に発売されていたアルバム(IV)に収録されているという事も知る由もなかった。

 

でもその失敗がきっかけだったのか、彼らに興味を持ち始めてシングルやアルバムを集め出し、アルバムで言えばIVの時期の91年、そこからはリアルタイムで雑誌やCD屋の情報を頼りに93年末の約2年半まで、リアルタイムで彼らの新譜を追う事になる。

(何故93年末までか...は後々に語る事にします)

 

ここでアルバムレビューを。

※リアルタイムで聴き出したのはIVからなのでここからIIIまでは後追いです。

 

LINDBERG I

 

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丁度30年前の今頃にリリースされた記念すべきファーストアルバム。今作では約7割が外部の作家による提供曲で歌詞も渡瀬マキが書いた1曲を除き全部作詞家のペンによるもの。故に後のリンドバーグとは異質な毛並みの作品で「取り敢えずデビュー盤制作にあたり寄せ集めてきた」感は否めなく、ちょっと見方を変えれば元アイドルがバンドを従えて路線変更して出した「渡瀬麻紀 WITH リンドバーグ」的な言わば「プレ・デビューアルバム」な感じ。

しかし今作以降、IIIからは完全にメンバーだけで自給自足するようになる事を思えばこれはこれで今作でしか味わえない「不完全なリンドバーグ」として楽しめる。「寄せ集め」とは言ったものの楽曲自体は悪くはなく、全体的にはハードロック/ポプスな音とアレンジでデビューシングルにもなったROUTE 246は何故かZIGGY森重樹一作曲。

(余談2) このROUTE 246は大人になって初めてツェッペリンのRock N Rollを聴いた時に「あ、リンドバーグだ!」と思わず口にしてしまった通り、イントロでは同曲のドラムパターンを引用していたりと遊び心も。

アルバム前半は比較的聴かせるようなミディアム〜くらいの曲が並び、アコースティックな「違う街 同じ月」を挟んでの後半はライブを意識したような勢いのあるナンバーで構成。

「違う街 同じ月」は個人的には今作で一番好きな曲。恐らくは夢を追うために電車で地元を旅立つ男とそれを見送る彼女の別れを彼女目線で歌った曲で

 

駅を出る改札で

すれ違う知らない顔

似ていない背中にも

あなたの影探してる

                                            (違う街 同じ月の歌詞より)

 

当時13歳のガキだった自分はこの一節を聴いて妙にジーンときて「この人は本当に別れたくなかったんだなぁ」と感動したのを覚えている。

 

そしてこのアルバムのハイライトである「MINE」。リンドバーグ結成のきっかけ的になった曲で過去に出たリンドバーグ本で読んだ記憶が正しければ、アイドルであった渡瀬マキがバンドでオリジナルが歌いたいとバックバンドのメンバーだった平川達也に相談した後彼がこの曲を書いてデモテープを渡すと直ぐに歌詞をつけてきたというエピソードがあったはず。その歌詞もメンバー(多分ドラムのチェリーだったと思う)曰く、「一般的にありがちな男性に守ってもらう女性ではなく、女性が男性を守るという「逆パターン」な内容で面白い歌詞を書く子だなと思った」というユニークなもの。そしてこの曲はデビュー前から解散に至るまで歌い続けられる彼らにとって大事な曲でもある。因みにこの曲のみ作詞のクレジットが本名、そしてアイドル時代からの「渡瀬麻紀」名義になっている。


MINE (LINDBERG) [1990.9.5 日本武道館 Live Ver.]

後のシングルのB面に収録された初の武道館公演でのライブバージョン音源。アルバムの原曲より先にこっちの方を聴いた記憶がある。アウトロでは原曲よりも長いギターソロになっていてよりドラマチックなアレンジでテンポ感や演奏、ボーカルも録音バージョンよりこっちの方が当時から好きだった。

 

最後は元筋肉少女帯の三柴江戸蔵作曲演奏によるボーカルとピアノだけの半ジャズ、半現代音楽風な曲で終わるのだけど何故この曲を入れたんだろう?完全に蛇足になっているとしか思えないのだけど(曲自体の評価ではないよ)。

 

今改めて聴き返してみると確かにファーストっぽい荒さみたいなものはあるんだけど、渡瀬マキ以外はそれまでスキルや実績のあるスタジオミュージシャンだったのに加え、ラウドネスやボーイ(後に氷室京介も)のプロデュースにも関わったプロデューサーのプロデュース、楽曲もプロからの提供など、通常の「新人バンド」のデビュー盤とは言い難いもの。渡瀬マキ自体も「再」デビューなわけで。

今回記事を書くにあたり振り返ってみるとリンドバーグって「作られた」バンドなんだなぁと感じた。ちゃんと「商品」となるようにある程度のクオリティを予め「用意」されていてた訳だから。

 

 

LINDBERG II

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そしてその約半年後にリリースされた2作目。この3ヶ月ちょっと先にリリースされる「今すぐKISS ME」でのブレイク前夜、全く売れずアイドル時代からのファンも段々と少なくなりライブの動員数も減っていった最状況の中、前作からの短いインターバル、売れない新人バンドへの予算の都合という条件の元作られたであろう今作は後に続くIIIやIVと比べると地味であるものの、楽曲に統一感があり好感が持てる。それは前作とは違い今回は(※)アレンジャー、サウンドプロデューサーを一人に統一したからかもしれない。

Wikipediaより

作曲陣もほぼ大半が外部の作家の手によるものだったのが今作では約半分になった(でもそれはメンバーの技量云々ではなく前作からのインターバルの短さゆえ時間がなかったからかもしれない)。曲調やアレンジもリンドバーグらしさが開花し始めたという点でも今作がある意味ファーストアルバムとしても良いと思うし、アルバムという意味では個人的には今作が一番好きだったりする。明る過ぎず、何処か切羽詰まりながらそれでも前を向いていこうみたいな、このアルバムプロモーションのキャッチコピーだった「前向き。」を感じる曲達。中でもそれを大きく反映しているのは「10セントの小宇宙(ゆめ)」だろう。

ああ 金ピカのコインも使えなきゃだだのガラク
ああ おんなじさ 僕たちもこの都会(まち)じゃだだのガラク
何も恐れない心が少し少し削られていく
そんな不安が押し寄せて泣きたい夜でも
逃げる事だけはしないよ 何一つ変わらなくても
自分だけの生き方だと 胸を張って言える

 

初期のアルバム曲の中でも人気の高い曲で、後のシングル”Dream on 抱きしめて”のB面にライブ音源でカットしてるぐらいだから本人達もお気に入りの曲なのかもしれない。

1番目では「(省略)おんなじさ 僕たちもこの都会(まち)じゃ だだのガラクタ」が2番では「僕たちもこの都会(まち)じゃ 『今は』ガラクタ」と歌われるところにグッとくる。この曲はEメジャーなのだけど、少し低めのキーで歌いながら最後のサビ前で3音も上がってGメジャーに転調し張り上げるように歌って終わる展開もニクい。

他にも後にバージョン違いでシングルカットされる”JUMP”、”Heart Voice”、”きみにできるすべて”、”BIG TOWN”と隠れた名曲が並ぶ。中でも作曲・アレンジ的に個人的に好きだったのは”Get The Emotion”。リンドバーグの曲に多い「Aメロ、Bメロ、サビ、1度しかないCメロ」という構成の曲なんだけど、通常Cメロは少し曲調が変わる(時にはキーも変わったりする)くらいのものなんだけど、この曲のそれはガラッとリズムから曲調から変わってかっこいい。この部分は初めて聴いた時から印象的で何の知識もない子供でも一発で好きになったくらい。因みに作曲はプロデューサーの井上龍仁。あとラストの“BIG TOWN”も映画の主題歌みたいなバラードでいいなと思ってお気に入りだった(実際渡瀬マキが出演した映画に使われていたはず)。

 

さて、長々とデビューの89年の足取りとアルバムレビューを書いてみました。次回は翌年90年の「今すぐKISS ME」の大ヒットブレイクから91年までを書きます。お楽しみに!

 

 

 

 

 

 

Face my fears/宇多田ヒカル

 

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2016年の復帰からレコード会社移籍後、その活動が活発な宇多田ヒカルの2019年一発目の新曲である。

2016年の復帰作「Fantôme」リリース後は暫くはリリース的に寡黙になるのかなと思いきや、明けて2017年にエピックソニーへ移籍を発表すると数ヶ月に1曲新曲を配信リリースし、2018年初夏には復帰第2作目となる「初恋」を発表。その後宇多田ヒカルとしては12年振りのツアー(Laughter in the dark)を開催し、ここで一息かと思ったらまさかの新曲リリース。

しかも他にその2年の間にリミックスを発表したりもしていて「どうした宇多田ヒカル?!」状態。新しいレコード会社の要請なのか分からないけどこう矢継ぎに作品を発表したりアクションがあるとファンの人には嬉しい限りだろう。

早い時期から「初恋」収録の「誓い」がKH3の主題歌とアナウンスされ、同時にその英語版「Don’t think twice」やエンディングにそのリミックスも制作しゲームソフトの発表時期にシングルカットするんだろうくらいは予想に難しくなかったけど、まさかの新曲と共にカットするとは。しかし元々新曲を提供する予定ではなく内情は「誓い」のリミックスをSkrillexに依頼したところリミックスではなくオリジナルを共同で制作したいと逆オファーされた経緯があるという(因みに彼はKHの大ファンらしい)。

(追記)

Skrillexのインタビューによると「誓い」のリミックスオファーは16年には既にあったらしい。しかし曲調やメロディが難しいためリミックスを断り、共作を提案したとの事。そしてこの「Face My Fears」は17年末には納品していたと発言している事から、恐らく既にFantôme制作後辺りから存在していたことになる。

ソース↓

スクリレックスが語る、宇多田ヒカルとの出会い&『キングダム・ハーツ』への思い「公開された時は夢が叶った感じだった」 | Special | Billboard JAPAN

 

18年末からプレビュー版が宇多田ヒカルの公式YouTubeで公開され、1ヶ月後の現在、日本語バージョンが61万回、英語版はなんと105万回再生されている。勿論「キングダムハーツSkrillex」という話題性もあるだろうけど今世界中で注目されているんだなぁ。

 

そして肝心の曲であるが…

イントロからピアノのフレーズが流れ、初恋も全体的に鍵盤のアレンジが印象的だったのでアルバムの流れ的な印象を受けていると「let me face,let me face,let me face my fears」と呪文のようなメロディのサビの後、もう一度サビの繰り返し…なのだが度肝を抜くような、ボーカルさえ加工バリバリのエレクトロというかEDM全開のサビ。いや、全開というよりもはや全壊である。skrillexというアーティストの作品はあまり良く知らないので詳しくは言えないけどサビ後半は完全に彼のカラー一色そのものでちょっと拍子抜けすらしてしまう展開。これは…聴き手を選ぶというか試される感じ。まるでリミックスみたいなのだ。逆にこの曲をライブでどう再現されるのか興味が湧くけどね。

 

「ふがやふがやふがやふんがふんが…」

 

最後のサビ前には何処かの国の言葉の様な不思議な言葉で歌われる。この展開にふとUTADA名義の”F.Y.I”を思い出した。

この歌の歌詞の一部(Om mani padme hum)は六字大明呪という陀羅尼が出てくる。この歌との関連はないと思うけどどんな意図があるのかちょっと気になるところ。

もう一つ個人的に気になったのは前作の主題歌「PASSION(英詞バージョンは”Sanctuary”)」とキーが同じ。コードワークもシンプルという点でも近い。

 

でもそこは重要ではなくて単に偶然だったのかもしれないけど。さらに加えるとSanctuaryにも「Fear」って単語が出てきたり…うーん、考え過ぎか。

 

しかし何度も聴いているとその違和感にも段々慣れてきて「これはこれであり」とまではいかなくても復帰以降の作品の中では一番好きかもしれない。作風も「初恋」や「Fantôme」で続いたアコースティックで柔かく丸っぽい音の対極でガツンと音圧感もあるし「この手の感じは宇多田ヒカルとしては久々な感じだなぁ」と思うに連れやはりアレンジは彼女だけでやらない方がいいなと改めて実感したのも事実。彼女だけのアレンジ曲は何かパンチが足りないというか…。

 

突如upされたリミックス。よりポップなダンスミュージックに仕上がってます。

 

 

メロディとか全然良いのにそれをもっと活かしたアレンジが欲しかったな、というのが個人的な感想でした。ある意味衝撃的なサビは印象深いところもあったけど…例えばPASSIONみたいに最後に大サビが突然出てくるとかね。余談だけどそのPASSIONもシングルの表記に「Single Version」ってあったから「だとしたらアルバムに入る時はアルバムバージョンとかなのかな??」って結構期待してたんだけど、あっさりシングルバージョン収録だった時はちょっと「ガクっ」ってなった覚えがあったなぁ(そう表記した理由も後日分かったんだけど)。

 

とは言え、アコースティックなイメージの「初恋」から一転した曲調は好印象でした。

 

次の新曲はどうでるでしょうか…?!

 

 

 

 

Devil Inside / Utada

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前にEXODUSのレビューを書いたので重複してしまいますがもう一度Devil Insideに焦点を当てて書こうと思います。

 

宇多田ヒカルUtada名義での全米デビュー盤「EXODUS」のリードトラックであるこの曲は非常にシンプルな構成をしていして、基本4分打ちのバスドラに白玉のベース、コードもG♭とFだけの繰り返しのミニマル過ぎる構成(スケールは変ロ短調(B♭)だと思う。理論に疎いので多分 汗)。サビのところで琴らしき音色のシーケンスが鳴っているのはアジアや日本というアイデンティティを意識したのだろうかと推測してしまう。

日本でのプロモーションでHeyHeyHeyに出演した時に明らかに弾き慣れていないギターを抱えての歌唱する姿が初々しいというか滑稽に映ったのを覚えている。

HeyHeyHeyで披露されたバージョン

 

全米でリミックスEPがリリースされダンスチャートで30位までいくも、MV

制作はされず(代わりにシングルカットはしていない"Easy Breezy"のMVが制作されている)。

 

Devil Inside Koto version (short edit) by NORC.

 

研究がてらDevil Insideのトラックを耳コピしてPCソフトで打ち込んでみた。原曲のビートがシンプル過ぎるのでここではトライバル風のビートに若干チェロやヴィオラなどの弦を加えてみた。後は基本的に音色も原曲に近付けたけどサビの後ろで鳴っている箏風のシーケンスはちょっと遊んでフレージングを変えている。メロディはボーカルの代わりに箏と二胡で奏でてよりアジアンな感じに仕立てた。

 

過去に2006年の国内ツアー(Utada United 2006)とUtadaとしてのUS/UKツアーで披露

されていて、ライブバージョンは音数も足され原曲の無機質な感じとは対照的に歌い方もよりハードでロックなアレンジになっていて淡々としたレコーティングバージョンよりこっちの方が断然かっこいいと思う。2010年の海外ツアーバージョンより2006年の国内ツアーバージョンの方がいいかな。なんてったってギターが今剛だし。

因みにレコーティングバージョンの2コードとは違い結構コードが変わっている(イントロ〜AメロがG♭/F/E♭/E♭とBメロからD♭/C/D♭/Cなど)。


Devil Inside (live version) in 2006

 

歌詞は自分の内面に住む悪魔(別の自分?)を歌っているのだけど、

 

”Everybody wants me to be their angel / Everybody wants something they can cradle“

"You dont know 'cause you're too busy to read the label / You're missing all the action underneath the table"

”Time to make it burn / This is how I burn”

 

誰もが私を天使にしたがる。誰もが可愛がる何かを欲している」

「あなたは表面を読むことに夢中になり過ぎて、その裏にあるものを見逃している」

「燃やす時間だ、私はこんな風に燃えるの」       (※意訳です)

 

と個人的にこの歌は「皆んなは私の事良く見てるかもしれないけど実際の私はそうでもないのよ」って感じに歌っているように聞こえる(その後に続く2番の"Just waiting for my turn"はちょっとよく分からない 汗)。対訳で訳した人が「情熱を燃やす」と訳そうとしたら「いや、普通に『燃やす』でいいです」と拒否したところからももっと淡々とした内面の自分(悪魔)を表したかったのかもしれない。

ところで宇多田ヒカルって抽象的な事を歌っていても実は割と素直に自分の状況や心情を歌っている事が多くて、浮気した実体験を歌ったとされる”Come Back To Me”やこのEXODUSも当時結婚したばかりの旦那である紀里谷和明との間の事を歌っていると思われる曲(You make me want to be a manやAbout Meなど)があったり、宇多田ヒカル名義でも母親に対して歌われる曲(Lettersや嵐の女神など)も少なくなくて実はとても素直な人なのかなと。そう言う意味では『シンガーソングライター』なんだなって思ったりして。とすれば”Easy Breezy”の”I’m Japaneezy”(尻軽日本人)も実体験?と邪念したり…笑。

 

初の全米デビュー盤というプレッシャーの中、実は初のセルフアレンジメント&プロデュース作品でもあるEXODUSは良くも悪くも宇多田ヒカルらしい曲作りだなと思う。特にこのDevil Insideはシンプルでミニマルという「引き算の美学」というか実験的に捉える事も出来るけど、ちょっと悪く捉えれは単調で手抜きっぽく聴こえなくもない。それは完全一人で作ったこのトラックより外部の手が加わったライブ版と聴き比べると余計にそう感じずにはいられないからだ。しかし曲はいい。それもライブ版が証明している。

 

 

さて、ここからは少し自分の話を。

前回の記事から自分の演奏動画を加えてみたり今回は耳コピして作ったトラックを載せて記事を書いてみたけどこれからもレビュー記事だけではなく出来る限りレビュー曲に対する何らかのアクションも加えながら書いていこうと思っていますのでお楽しみに 笑。

あとブログと並行して演奏やトラック制作、他にも色々な動画の制作もしているので、良かったら僕のYouTubeチャンネル登録もよろしくお願いします!色々面白い事をしていこうと思っているので楽しみにしてて下さい!

 

では今日はこの辺で!

 

 

 

 

 

 

 

DAHLIA / X JAPAN

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X JAPANの13枚目のシングル曲。初回盤は黒い紙で覆われていて、中身は2種類のジャケが用意されていた(因みに自分が買った時は左側の横顔バージョンだったと思う)。オリコンチャートも余裕の初登場1位。

この曲は94年末の東京ドームでhide作のSCARSと共に新曲として初披露され、4年ぶりのツアー中の96年初頭にリリースされた。その前に95年末辺りからテレビ出演などでTVサイズのショートバージョンが公開されていて、曲の存在を知らされてから1年、その間のリリースもバラードシングルのみだったから初めて聴いた時は「これだよ、これ!」と興奮したのを覚えている。久々のハイスピード/8分程の大作という事でかなり期待して聴いた。

大まかな構成はレコーディングバージョンと変わらないが、キーや歌詞が若干違っていたり演奏も初披露が故か大分ラフで慣れてない印象を受けた。

 

この曲の聴き処は沢山あって、先ずギターが「リード/バッキング」と分かれているだけじゃなくヘッドフォンで聴くと左右対象の違うリフがまるで2つで1つのリフを構成しているようなアレンジにしていたり、ギターソロ後のAメロではギターの弦を掻き毟ったかのようなノイズ、ギターソロもそれまでのX得意のツインのメロディックなものではなく良くも悪くも雑で「ノイジー」に聴かせるものになっている。そしてもう一つがドラム。この曲はドラムといっても良いほどドラムがとにかく動きまくる。イントロからオカズの嵐で、特にギターソロ前のセクションではただ流れるだけのオカズではなくミュートを多用し一瞬の「間」を活かしたドラミングだったりして最早ドラムソロと呼んでも差し支えない程かっこいい。ドラムパートだけならX最高峰だと思う。

曲としてもイントロのところで1小節だけ変拍子が入っていたり、後半のバンドサウンドが止まりボーカルとピアノ(+オーケストラ)だけの「抜き」のところではいつものパターンのピアノではなくハープシコードを使っていたり、ギターの音も変化していたりとアレンジ、サウンド共にそれまでとは違う新しいものになっている。音もそれまでのメタリックなものよりオルタナティブ/ヘビィロックを意識していたかもしれないと推測。

難点としては歌のメロディが単調でつまらない事とミックスの処理に凝り過ぎたのかドラムの音が潰れてしまって耳が痛くて着心地が良くない事。これはアルバム曲のSCARSにも言える事だけどドラム、特にスネアの音がカンカンし過ぎてやっぱり聴き心地が悪い(確かこれは意図的な事でhideのアイデアだと聞いた事があるけど)。

 

構成もいつものYOSHIKI曲の定石通り沢山のセクションで構成されていたり、途中ハーフテンポになるところで打ち込みを混ぜていたり(パッと聴きは分からない)、ギター、ドラムのアレンジやミックスのみならず約60人のオーケストラの演奏を2回重ねて120人分のストリングスにしているところなど凝りに凝りまくっていて最早病的ですらある。レコーディングにどれだけ時間を掛けたかは分からないけど(DAHLIA THE VIDEOに収録されているレコーディングドキュメンタリーを観るに相当細かいところまでこだわっているのが確認できる)、譜面にするまで3ヶ月、ミックスでも2週間というから普通のバンドならアルバム1枚は作れるくらいだと思う。

個人的にはXの中でART OF LIFEの次くらい好きな曲(これかSilent Jealously)。ドラムやっているからやっぱりこの曲は外せないのです。

 

年甲斐もなくDAHLIAを叩いてみました。途中までですが…汗。因みにこの曲は2バスですが2バスやった事がないのでワンバスでやっています。一応この曲はワンバスでも何とか乗り切れなくもないけどサビ前のバス連打のところは外せないのでそこはタムとバスのコンビネーションで応用しています。あと他にもワンバス用に色々アレンジして叩いてます。

 

この記事は先走って投稿してしまいましたがまたちょっとリライトしようと思います。

 

では!

 

 

名もなき詩 / Mr Children

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96年にリリースされたミスチルのシングル。確か和久井映見のドラマの主題歌だったと思う。元々ミスチルに強い興味を持てなかったため彼らの曲(特に98年の活動再開以降)はほぼ知らないのだけどこの曲は好きだった。

ミスチルは中学生だった92年ごろ「GB」や「WHAT’S IN」の音楽情報誌でデビューしたての新人として目にして(同時期にシャ乱Qもいたけど「これは売れんやろ」と思ってた)「変なバンド名だなぁ」と思っていた。実際に曲を初めて耳にしたのはポッキーのCMソングだった「Replay」という曲。「ふむふむ、これがミスチルか」とメロディも良かったのでレンタル屋にシングルを借りに行った。

しかしその直後あの「CROSS ROAD」でブレイクするとは全く思わなかった。それからは破竹の勢いで「innocent world」と「Tomorrow never knows」と快進撃を続け、「Atomic heart」を出す頃にはもう王者の風格さえあった。「Tomorrow never knows」なんてイントロ聴いただけで間違いなく大ヒットすると思っていた。

その後「everybody goes」や「es」、「シーソーゲーム」とシングルを出しそれぞれミリオンヒットするも95年末になってもアルバムは出ず、「いくらまだ前のアルバムがヒットしてるとは言え今のタイミングでアルバム出さないと篠原涼子みたいになるんじゃないか(※)」と余計な心配をしていた。

※前年に小室プロデュースで「愛しさと切なさと心強さと」をリリースしメガヒットするもそれからリリースの間が空き、そらから1年後にようやくリリースされたアルバムはシングルのセールスからするとあまり売れなかった。

 

そしてその後アルバムを出さないままこのシングルが出た。そのちょっと前にB’zが出したシングル(Love Phantom)が初動売上95万枚と話題になったのだけど、このシングルはそれを大幅に更新した120万枚を記録(恐らくこの記録は未だに破られていない)。当時の音楽産業バブルが如何に凄かったかを伺い知るエピソードの一つですね。

この曲の面白いところはシンコペーションを多用したリズム。ドラムはAメロでは後半の半小節は全部タムとフロアで裏を叩いてて間を作りためている。特に面白いのは前小節の終わりからバスタムでシンコペートしているせいでリズムが食い気味になり「跳ね感」を強調している点。ベースラインもスライドを多用してカッコいい。あとアコギとエレキのストロークをそれぞれ左右に振ってミックスされているアレンジもユニーク。

ユニークついでに言えば曲の構成も多彩で、Aメロの後にBメロに移るとまたAメロに戻り(しかしこの2回目のAメロは最後のコードがCadd9になりサビへの繋がりを作っている)、そしてサビという展開をもう一度繰り返した後Cメロへ。そして短いギターソロを挟みラップっぽい早口の変則Aメロになった後、転調し最後の大サビへ。この転調の仕方がまたカッコいい。転調と言えば小室哲哉が多用する十八番の技法だけどここでは彼の前触れもなしにいきなりキーが上がる的なそれではなく、D♭/E♭→A♭と前置きを挟みながらの転調。全体的なコードワークや構成のアレンジはきっとプロデューサーの小林武史の手腕が大きいのだろう。並みのソングライターでは中々出来ないアレンジだ。こんなに凝っているのにそう感じないのはきちんと歌を中心にアレンジされているからかもしれない。

そして歌詞は人間関係性を歌ったもので裏切ったり裏切られたりと迷いながらもそれでも生きていこう的な感じ。曲中の「ノータリン」という言葉が当時の放送禁止用語だったらしいがテレビでは普通に歌われていた記憶がある。

この曲はそれまでのシングルとは違い同年の夏にリリースされたアルバム(「深海」)に収録されアルバムの先行シングルになっているものの、この年の年間シングルチャートの1位になり、自身の売り上げの中でも「Tomorrow never knows」に次ぐ2位を記録。

 

CROSSROADのブレイクから約2年ちょっとでTomorrow never knowsが売り上げ200万枚、アルバムAtomic Heartが300万枚、そしてこの曲が初動売り上げ120万枚を記録した事で90年代の王者に君臨する事を示した形となったのであった。 

 

 

 

 

Exodus/ Utada (後編)

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後編では各トラックについて少し詳しく書いてみようと思います。

 

1.opening

宇多田ヒカルの作品では定番のインストないしワンセクション分のボーカルが入った小品。

いきなりリードトラックから始まるのではなく前奏的なトラックを用意しているところからしてこのアルバムにかける意気込みみたいなのを感じる。

 

2.Devil Inside 

米国でのリードトラックでリミックス(恐らくRichard Vission remix)がビルボードのダンスチャートで30位を記録。

G♭とFだけのミニマルなコード進行ながらAメロとサビで上手くメリハリをつけて展開していく曲。日本でのプロモーションでHey hey heyでこの曲を披露していたけど明らかに弾けないギターを持ちながら歌唱している姿がとても滑稽に見えたのを覚えている。録音版では地味な打ち込みの曲って印象だけど、宇多田ヒカルとしてのツアー(UTADA UNITED 2006)で披露されたライブバージョンは比べられないほど素晴らしいアレンジなので是非そちらを聴くべし。

 

3.Exodus’04

 

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ティンバランドによるトラックでタイトルにもなっている曲。こういうトラックメイキングは宇多田ヒカルには出来ないし、しようとも思わないと思う。ちょっと喘ぎ声のように聴こえる部分を拾ってその音と「04」をひっかけて作詞したのかなと推測したり。サビで出てくる鍵盤バッキングも切なく曲を引き立てているけど恐らくこの部分は宇多田本人による後付けかもしれない。因みにこの曲もリミックスEPとしてシングルカットされ、ビルボードのダンスチャートでは9位をマーク。ただ、ダンスチャートは曲や歌手自体よりリミキサーの名前や手腕によるところが大きいのであまり宇多田本人どうこうとは関係ないように思う。

 

4.The Workout 

軽めの打ち込みスネアの音がバシバシと耳に煩い曲。本人曰く歌詞の内容が凄くエッチで歌うのが恥ずかしいらしいが非ネイティブからすると全然分からない。

当初インタビューで「ティンバランドのトラックを私のクセの強いトラックで挟んじゃったから彼のトラックが地味に聴こえるかも」と発言していて恐らくDevil Insideとこの曲と思われるが、個人的にはこのティンバランドのトラックの方が印象強いです…。

 

5.Easy Breezy

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日本でのリードトラックでDVDシングルとして発売。MVも歌詞の内容をちゃんと汲んだ作りになっていて、酷い元カレに対して歌われる曲。この歌詞の中にある”You’re easy breezy and I’m Japaneesy”と韻を踏んだ一説が少し問題になったらしいが(”Japaneesy”を無理やり訳すと「尻軽な日本人」となるらしい)、単なる韻を踏んだジョークのつもりだと思うんだけども。因みにeasy breezyにはヤリ◯ンって意味もあるらしいからなぁ。それ以上に問題なのはこのMVでのメイク。如何にも欧米人から見たアジア人メイクって感じでケバくて…これじゃほんとにヤリ◯ンに見えるぞ…。1番の歌詞の”Hello,Goodbye”という一説に対して2番では”Konnichiwa sayonara”と日本語にして遊び心も入れているのもユニーク。

 

6.Tippy toe 

 

7.Hotel lobby

個人的に好きなトラックの一つ。タブラの音から始まりシンセのフレーズと時折シンコペートするスネアのリズムが印象的。サビの後ろで薄く流れる白玉のシンセパットの音も個人的にはツボ。一部のメロディが宇多田名義の"Kiss & Cry”に流用されている(宇多田名義の「嘘みたいなI Love You」のサビが「光」の英詞版「Simple and Clean」のサビに使われていたりと彼女の場合こういうパターンは珍しくない)。

「彼女は尊敬されたくない、リアリティを親友にしているから」「彼女は無防備…」とリアリストな女性を第三者的視点で歌われている。が突如サビでは主語が「彼女」から「私」と一人称に入れ替わり「ホテルのロビーで会いましょう」「あなたと私の目が合うのはホテルのロビーの中」と続く不思議な曲で色んな解釈が出来るけど個人的には「彼女」と「私」は同一人物で、建前と本音みたいな対比で主観と客観を使い分けているのだと解釈している。ロビーの鏡に映るあなたの目は「私」の目だから。

 

8.Animato

今作の日本語訳は外部発注しているのにも関わらずこの曲のみ本人が訳しているというよく考えれば変な曲。ネイティブである本人が英語圏に向けて書いた曲を本人が日本語に訳すって中々ないケースだもんね。

歌詞の内容はこれも世界デビューに向けての自己紹介的な感じ。

 

9.Interlude

オープニングの変奏。そんなに違いはない。

 

10.Kuremlin Dusk

このアルバムのハイライトとなる曲。この曲のみドラムが生でマーズ・ヴォルタのドラマーが演奏。この曲も日本でのUTADA UNITED TOURとアメリカ・イギリスでのIn The Flesh Tourで披露されている。この曲もDevil inside同様ライブ版の方が遥かにカッコいい。Devil〜とは違いこの曲はほぼ原曲通りにライブで再現されているけどエンディングでのシャウトなどライブならではの演奏で迫力がある。

 

11.You Make Me Want To be A Man

 

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イギリスでのデビューに伴いシングルカットされた曲で前作MV(Easy Breezy)での反省を生かしてか当時の旦那である紀里谷和明が制作したMVは紀里谷ワールド全開のダークでCG全開な作り。

歌詞は「何の意味もない口論/これが私なの/とても言いたいことがあるのに言えない/あなたといると男になりたくなる」と分かり合えない男女の価値観の軋轢を歌っている。恐らく紀里谷との事を歌っているのかもしれない。

MVが出た後にこのタイトルだと単に「人間になりたいと思ってしまう」って解釈になりそう。

 

12.Wonder ‘bout

ダークでヘビィなが続いた後は少しコミカルなティンバランドによるトラック。このアルバムで一番R&Bと言うかブラックな作風。メロディの譜割りもそれに合わせるリリックも複雑でよくこんな歌詞書けるな、しかも歌えるなって感心する。

 

13.Let Me Give You My Love 

こちらもティンバランドによるスペーシーなトラック。ティンバランドのトラックだと曲やメロはR&B寄りになるのですね。

 

14.About Me

アルバムのラストはアコギと打ち込みのリズムによるミディアムバラード。「まだ子供は欲しくないって言ったらどうする?」などこれも元旦那である紀里谷和明に向けて歌われていると思われる。

 

Exodus /Utada (前編)

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ほくそ笑むDevil Inside

 

2004年にリリースされた宇多田ヒカル(Utada名義)のアメリカデビュー作。日本デビューそれ以前にもCubic U名義で全曲英詞でアーバンR&B/Soulのアルバムを出していたり、2001年にはネプチューンズによる”Blow my whistle”をジャッキーチェンの映画「Rush Hour 2」に提供したりと布石はあったし流れとしても当然の全米デビュー。2002年にアメリカのIslad Def Jamと契約するもそれから約2年以上かかってのリリースとなったのは自身の結婚や病気に加えレコード会社幹部の交代など大人の事情のゴタゴタに巻き込まれたのもあるらしい。

 

04年になると先ず日本武道館で5日間公演(ヒカルの5)とシングルベストを出した後、Utadaとしてオリンピックの公式サントラに(アルバムにも参加しているティンバランドの)”By your side”に初めてfeaturing参加した後、同年9月に日本先行で”Exodus”がリリースされた。「日本の歌姫の全米への挑戦」という期待もあり英詞、非J-pop調のアルバムにも関わらず初登場1位、ミリオンセラーを記録。

日本人というかアジア人が全米デビューする事には成功するか否かの前にアメリカのマーケット用にそれまでのスタイルを変えてアメリカナイズされた曲や表現の仕方に結構興味があって、さて宇多田ヒカルはどう勝負を挑んでくるのかと興味津々で聴いてみると…

「これは売れないだろうな…」が最初の印象だった。ティンバランドプロデュースのトラック以外は全て自分でプログラミングしたらしいのだけど地味で、それまでの宇多田ヒカル名義のアルバムですら完全に一人でトラックメイキングはした事ないはずなのにアメリカという未知のマーケットに挑むというタイミングで初めての事をよくレコード会社の人は許したなぁと訝しんだ。あとボーカルが弱い。アジア人という事でただでさえ細い声なのに特に苦しそうに出してる高音はキーキーしてて耳心地が良くない。あとPOPなのかR&BなのかDANCEなのかカテゴライズが曖昧。そのどれもが要素として含まれていはいるんだけどはっきりとせず中途半端。アメリカで勝負出来るようなボーカルでもなければ、踊りが上手いわけでもない、見た目も普通なアジア人で"Easy Breezy"のMVでは欧米人から見た典型的なケバいアジア人メイク…。恐らくアジア人は見た目が若いからメイクで大人っぽく見せようとしたのかもしれないけどあれはあまりにも酷かった。

訝しんでいた理由の一つにレコード会社は彼女を本気で売り出そうとはしてなかったと思う。アメリカで出す云々よりもとりあえずうちと契約してアルバム出せば日本だけでも良いセールスは得られるだろうくらいにしか狙ってなかったような。本人だって日本デビューからいきなりバカ売れしたから「私はそのままでいいのよ」と高を括っていたのかもしれない。ドリカムが全米進出して結果失敗した時も色々言ってたしね。あと歌詞のも個人的な事を抽象的に歌っていたり小難しい言葉使いだったりして分かりにくいかなとも感じた(Easy Breezyの”Japaneesy”やAbout Meの”something you’ve already chewed”など独特の言葉使い満載)。ネイティブが聴くとまた違って聞こえるのかもしれないけど、実際留学した時現地の人に聞いたら「こんな言い方はない」って言われた事あるし。単に韻を踏んだ言葉遊びなんだろうけどね。

 

と、冷静に分析すると酷評になってしまったけど個人的には好きなアルバムでトラックも中々面白いと思う。実際出てから数年は聴きまくっていたし、「R&Bを売りにした日本で一番売れた日本人の全米デビュー盤」って看板を外して普通にシンガーソングライターのデビュー作としてなら全然面白いアルバムだと思う。後に本人が「それなりにロック好きとか尖ってるのが好きな人達には受けた」とか「あのアルバムは結構実験的で…(中略)アングラなフォロワーが出来た」(※英語でのインタビューをから訳)と発言しているように「宇多田ヒカル」って名前を外せば素直に面白いねって言えると思う。

 

※それから約10年後にリリースされた復帰作「Fantôme」がiTunesチャートとは言え全日本語詞による日本マーケット向けの作品にも関わらずアメリカのiTunesチャートで3位をマークするという偉業を成し遂げる事になるのだがそれはこちらの記事を参照のこと↓

 

F#とFのみのミニマルなコード進行ながらAメロとサビでメリハリをつけて展開していく”Devil Inside”、ティンバランドらしい不思議なトラックが印象的な”Exodus’04”、”you’re easy breezy and I’m Japaneazy(あなたはイージーブリージーで私は尻軽な日本人)”と韻を踏んだ歌詞が問題となった”Easy Breezy”、売春をしていると思わしきリアリストな女性を客観的に見つめる”Hotel Lobby”、「あなたといると男になりたくなる」と分かり合えない男女の価値観の軋轢を歌う"You make me want to be a man”、今作のハイライトで唯一生のドラム演奏が使われている”Kuremlin Dusk”。

"Devil Inside"では琴に近いシンセの音色を使ったり、"Easy Breezy"では「Konnichiwa sayonara」と日本語を入れてみたりとオリエンタリズムというか遊び心を入れつつ、全体的には正攻法より斜めからのアプローチが多く、歌詞の内容や曲の音色も「ダーク」な印象が強い。

2年後日本でのツアー(UTADA UNITED 2006)ではこのアルバムから”Devil Inside”、”Kremlin Dusk”と”You make me want to be a man”の3曲が披露され、各曲とも今剛氏のギターが映えるバンドアレンジでシャウトやアドリブ風のスキャットも加わったライブバージョンはロック色が強調されているが「こういう曲調をフィーチャーしたアルバムでも良かったのでは?」と思うほどかっこよかった(ちなみにUtadaとしての初のUS/UK ツアーでもこの3曲は披露されている)。次作や宇多田ヒカルとしても近年はこういうダークで激しい曲を書かなくなっているのでまた書いて欲しいなと思うんだけどな。そう、最近の宇多田ヒカルに対して抱く物足りなさはこういう激しめのダークサイドがなくなってきているからだと感じる。

 


Devil Inside

 

結局このアルバムでは2枚のリミックスEPを出したのとリリース前に現地で小さな会場でお披露目ライブをしただけで特に大掛かりなプロモーションもせず終わってしまう(ミュージックステーションで披露した"Exodus’04”を除けば前記した3曲以外も後にも先にもライブなどで演奏される事もなかった)。翌年にイギリスでもジャケット違いでリリースされるもヒットせず。世間からは「失敗作」という烙印を押されてしまう結果となった。

ドリカム曰くアメリカのマーケットはとにかくデカ過ぎて人種や宗教など色んな壁や制約がありそんな場所で成功するのは途方も無く無謀な事で、そんな巨大なマーケットに何の勝算もなく挑んだのが違いだったのかもしれない。YouTubeが普及した現在、日本のカルチャーや音楽が一部に受け入れられているとは言えどそれは物珍しさの延長でしかないと思うし、本当の成功は向こうにしっかり基盤を置いて向こうの「音」や「歌」として鳴らさなければならないものだと思う。日本が基盤でその延長で向こうでもちょこっと受け入れられているよくらいで良いのならそれで良いのかもしれないけど。

 

後半へ続く。