最終バス乗り過ごしたあとに。

アラフォー音楽家が書く雑多なブログ。

Exodus /Utada (前編)

f:id:ninto_nakahara:20180522190422j:image

ほくそ笑むDevil Inside

 

2004年にリリースされた宇多田ヒカル(Utada名義)のアメリカデビュー作。日本デビューそれ以前にもCubic U名義で全曲英詞でアーバンR&B/Soulのアルバムを出していたり、2001年にはネプチューンズによる”Blow my whistle”をジャッキーチェンの映画「Rush Hour 2」に提供したりと布石はあったし流れとしても当然の全米デビュー。2002年にアメリカのIslad Def Jamと契約するもそれから約2年以上かかってのリリースとなったのは自身の結婚や病気に加えレコード会社幹部の交代など大人の事情のゴタゴタに巻き込まれたのもあるらしい。

 

04年になると先ず日本武道館で5日間公演(ヒカルの5)とシングルベストを出した後、Utadaとしてオリンピックの公式サントラに(アルバムにも参加しているティンバランドの)”By your side”に初めてfeaturing参加した後、同年9月に日本先行で”Exodus”がリリースされた。「日本の歌姫の全米への挑戦」という期待もあり英詞、非J-pop調のアルバムにも関わらず初登場1位、ミリオンセラーを記録。

日本人というかアジア人が全米デビューする事には成功するか否かの前にアメリカのマーケット用にそれまでのスタイルを変えてアメリカナイズされた曲や表現の仕方に結構興味があって、さて宇多田ヒカルはどう勝負を挑んでくるのかと興味津々で聴いてみると…

「これは売れないだろうな…」が最初の印象だった。ティンバランドプロデュースのトラック以外は全て自分でプログラミングしたらしいのだけど地味で、それまでの宇多田ヒカル名義のアルバムですら完全に一人でトラックメイキングはした事ないはずなのにアメリカという未知のマーケットに挑むというタイミングで初めての事をよくレコード会社の人は許したなぁと訝しんだ。あとボーカルが弱い。アジア人という事でただでさえ細い声なのに特に苦しそうに出してる高音はキーキーしてて耳心地が良くない。あとPOPなのかR&BなのかDANCEなのかカテゴライズが曖昧。そのどれもが要素として含まれていはいるんだけどはっきりとせず中途半端。アメリカで勝負出来るようなボーカルでもなければ、踊りが上手いわけでもない、見た目も普通なアジア人で"Easy Breezy"のMVでは欧米人から見た典型的なケバいアジア人メイク…。恐らくアジア人は見た目が若いからメイクで大人っぽく見せようとしたのかもしれないけどあれはあまりにも酷かった。

訝しんでいた理由の一つにレコード会社は彼女を本気で売り出そうとはしてなかったと思う。アメリカで出す云々よりもとりあえずうちと契約してアルバム出せば日本だけでも良いセールスは得られるだろうくらいにしか狙ってなかったような。本人だって日本デビューからいきなりバカ売れしたから「私はそのままでいいのよ」と高を括っていたのかもしれない。ドリカムが全米進出して結果失敗した時も色々言ってたしね。あと歌詞のも個人的な事を抽象的に歌っていたり小難しい言葉使いだったりして分かりにくいかなとも感じた(Easy Breezyの”Japaneesy”やAbout Meの”something you’ve already chewed”など独特の言葉使い満載)。ネイティブが聴くとまた違って聞こえるのかもしれないけど、実際留学した時現地の人に聞いたら「こんな言い方はない」って言われた事あるし。単に韻を踏んだ言葉遊びなんだろうけどね。

 

と、冷静に分析すると酷評になってしまったけど個人的には好きなアルバムでトラックも中々面白いと思う。実際出てから数年は聴きまくっていたし、「R&Bを売りにした日本で一番売れた日本人の全米デビュー盤」って看板を外して普通にシンガーソングライターのデビュー作としてなら全然面白いアルバムだと思う。後に本人が「それなりにロック好きとか尖ってるのが好きな人達には受けた」とか「あのアルバムは結構実験的で…(中略)アングラなフォロワーが出来た」(※英語でのインタビューをから訳)と発言しているように「宇多田ヒカル」って名前を外せば素直に面白いねって言えると思う。

 

※それから約10年後にリリースされた復帰作「Fantôme」がiTunesチャートとは言え全日本語詞による日本マーケット向けの作品にも関わらずアメリカのiTunesチャートで3位をマークするという偉業を成し遂げる事になるのだがそれはこちらの記事を参照のこと↓

 

FとEmのみのミニマルなコード進行ながらAメロとサビでメリハリをつけて展開していく”Devil Inside”、ティンバランドらしい不思議なトラックが印象的な”Exodus’04”、”you’re easy breezy and I’m Japaneazy(あなたはイージーブリージーで私は尻軽な日本人)”と韻を踏んだ歌詞が問題となった”Easy Breezy”、売春をしていると思わしきリアリストな女性を客観的に見つめる”Hotel Lobby”、「あなたといると男になりたくなる」と分かり合えない男女の価値観の軋轢を歌う"You make me want to be a man”、今作のハイライトで唯一生のドラム演奏が使われている”Kuremlin Dusk”。

"Devil Inside"では琴に近いシンセの音色を使ったり、"Easy Breezy"では「Konnichiwa sayonara」と日本語を入れてみたりとオリエンタリズムというか遊び心を入れつつ、全体的には正攻法より斜めからのアプローチが多く、歌詞の内容や曲の音色も「ダーク」な印象が強い。

2年後日本でのツアー(UTADA UNITED 2006)ではこのアルバムから”Devil Inside”、”Kremlin Dusk”と”You make me want to be a man”の3曲が披露され、各曲とも今剛氏のギターが映えるバンドアレンジでシャウトやアドリブ風のスキャットも加わったライブバージョンはロック色が強調されているが「こういう曲調をフィーチャーしたアルバムでも良かったのでは?」と思うほどかっこよかった(ちなみにUtadaとしての初のUS/UK ツアーでもこの3曲は披露されている)。次作や宇多田ヒカルとしても近年はこういうダークで激しい曲を書かなくなっているのでまた書いて欲しいなと思うんだけどな。そう、最近の宇多田ヒカルに対して抱く物足りなさはこういう激しめのダークサイドがなくなってきているからだと感じる。

 


Devil Inside

 

結局このアルバムでは2枚のリミックスEPを出したのとリリース前に現地で小さな会場でお披露目ライブをしただけで特に大掛かりなプロモーションもせず終わってしまう(ミュージックステーションで披露した"Exodus’04”を除けば前記した3曲以外も後にも先にもライブなどで演奏される事もなかった)。翌年にイギリスでもジャケット違いでリリースされるもヒットせず。世間からは「失敗作」という烙印を押されてしまう結果となった。

ドリカム曰くアメリカのマーケットはとにかくデカ過ぎて人種や宗教など色んな壁や制約がありそんな場所で成功するのは途方も無く無謀な事で、そんな巨大なマーケットに何の勝算もなく挑んだのが違いだったのかもしれない。YouTubeが普及した現在、日本のカルチャーや音楽が一部に受け入れられているとは言えどそれは物珍しさの延長でしかないと思うし、本当の成功は向こうにしっかり基盤を置いて向こうの「音」や「歌」として鳴らさなければならないものだと思う。日本が基盤でその延長で向こうでもちょこっと受け入れられているよくらいで良いのならそれで良いのかもしれないけど。

 

後半へ続く。

 

 

 

hideの命日に (再考)

f:id:ninto_nakahara:20180502103840j:image

 

今日は5月2日。一年前の今日、20年前のこの日にに起こった悲劇を思い出してブログに書いたのでもう一度同じ日に書いてみようと思う。

 

hideの命日に思うこと。 - 最終バス乗り過ごしたあとに。

 

あれは忘れもしない夏休みも終わりに近づいた93年の8月25日。ロック好きのYと映画を観に行った帰りに「ちょっと買いたいCDがあるから」とCD屋に立ち寄った後Yの家で聴かせられたのが”ART OF LIFE”だった。全部英詞でしかもHR/HMの曲なんて人生初めて聴くし、ピアノソロも「なんじゃこりゃー」だったけど、Yが言うには「どうせ途中で飽きるかな思ったけど最初から最後まで真剣に聴いてた」と25年経った今でも言ってくるくらい「とにかくなんか凄いこれ」と聴き入っていた気がする。特に2回目サビのバイオリンソロは二胡みたいな音色で美しく印象的だったのは覚えている。お化粧バンドっていう偏見や嫌悪感も忘れるくらい凄かったけど、後ジャケのアー写の一人に何故か惹きつけられていた。それがhideだった。

f:id:ninto_nakahara:20180502012708j:image

「なんだこのピンクい髪は」

それまで見たお化粧バンドのクオリティとは全然違い、そのアー写の赤髪の人は同じ人間とは思えないくらい存在感で正に漫画のキャラクターが具現化して出てきた人って感じだった。

 

それから少しして後々バンドメンバーとなる大のXファンのSと知り合いになった。放課後になると半ば拉致気味にSの家に連れていかれまるで洗脳の如くXのCDやビデオを聴かされ観まくらされ、1ヶ月も過ぎた頃にはすっかりXに染められていた。

Xと言えばその中性的な美しさでピアノを弾いたかと思えば半裸になってアスリートの如く高速ドラムを叩くYOSHIKIだと思うけど、自分の中ではやっぱり赤髪のhideで、いくらSの洗脳(余談だけどXの話をする時に「洗脳」って言葉を用いると何か妙な気分になりますね)があったとは言えhideがいなかったらXにハマっていなかったと思う(後にバンドを始めるにあたりドラムをする事になってからは少しずつYOSHIKI派になっていくんだけども)。年末になるまでにはすっかりハマってて「X、2年ぶりのライブを年末に東京ドームで」と新聞の記事を見つけすぐさまSと共に興奮したりしていた。

 

それから年が明けてシングル”DICE”が発売されると速攻で買いに行った。

マイナーのギターフレーズのイントロから始まる3分弱のシンプルなロックソング。シンプルなんだけどAメロからサビに移りイントロ部を挟んでまたAメロに戻るかと思いきや少し変則的なサビになる。コードは同じだけどメロディが上がって変化をつけているし、最後のサビもハモりを強調した感じとリズムもスネアで4拍打って「ラスト感」を強調させていて同じ展開がない。シンプルなんだけどギミックは忘れないというか直球なようでやや変化球的な曲。

その後直ぐに出た1stアルバム”Hide Your Face”の初回盤はH・Rギーガーによる仮面の立体的なオブジェで、開けるとhideの顔が出てくるという凝ったものだった。確か通常盤より200円くらい高かったと記憶してる。クラスや周りの友人らはこぞって買っていたけど実は何故か自分は買わなかった。その時お金がなかったのかどうか覚えてないけどその代わり同時期に出たMV週のビデオは買った。多分自分の中でhideは音よりもビジュアルだったんだと思う。

シングルの”Eyes Love You”や”Dice”は勿論、”Eyes〜”のアウトテイク素材で作られた”OBLAAT”、アメリカのレディースバンド"L7”のメンバーが出演した”DOUBT”のMVをメインにちょっとしたオマケ映像を収録したビデオでの一番の見所はオープニング。93年末のXの東京ドーム公演のソロコーナー「Hideの部屋」直前の映像。勿論その公演は見に行けなかったし、もう少ししたらライブビデオが出るんだろうなと思っていたけど(なんとこのライブが発売されたのはそれから15年後…)、少しでも最新のXのライブの雰囲気やhideの映像が観れる貴重なものだったし、あと当時15歳だったので、そんな小童には刺激の強い映像でもあった。。

f:id:ninto_nakahara:20180502125119j:image

Burny MG-X 通称「Shocking Pink」

93年"Eyes Love You”のMVで初登場。

年末のドーム公演でのソロコーナーや

翌年の1stソロツアーで使用された。

 

それからソロツアーをした後の約2年間は沈黙状態。Xでの恒例のドーム2DAYSやツアー(95年11月からのダリアツアー)を行うものの「Xのレコーディングとかで忙しいんだろうか」と思っていたところに「ツアー中にYOSHIKIが倒れる」「ツアー中止」のニュースが。再起不能的な情報もあったりして「アルバム出るんか?」と不安になったりした。そんな中で96年春に「Lemonedレーベル」の設立、レーベルのサンプラーCDとビデオが発売される。音源と映像は共に"限界破裂”と”Bacteria”の2曲の新曲収録。約2年ぶりに新曲と「動くhide」が観れた。そしてその直後に久々のシングル”Misery”、2ヶ月後には”Beauty&Stupid”も発売され、トントン拍子に2nd”PSYENCE”もリリースされた。

 

この頃辺りからhideは作風のみならずビジュアルにも変化が現れる。1stまでは「Xのhide」然としたメイクやロングヘヤー、ギターも初期hideの代名詞である「ペイント」かブラックのMGだったのが、髪もバッサリ切って蛍光色の衣装やでポップになっていく。

f:id:ninto_nakahara:20180502103923j:image

初期のメインモデル 通称「ペイント」

 

ギターはMGシェイプはそのままにレモンドロップとチェリーサンバーストへとバージョンアップ。

f:id:ninto_nakahara:20180502103950j:image

Burny MG-X "cherry sunburst"

中期(95-96年)のメイン機。初登場は94年末の東京ドーム公演で

Week EndやStanding Sexなどの半音下げの曲で使用。

その後2代目機からはサスティナーが搭載される。

 

f:id:ninto_nakahara:20180502104057j:image

 Burny MG-X "Lemon Drop"

初登場は94年末の東京ドーム公演。

新曲として演奏したドロップDチューニングの"Scars On Melody"や

2nd solo tourでも使用された。

 

作風もローファイ〜オルタナティブ系、HR/HM系の音からベビーロック風アプローチへ。当時のアメリカの音「アフターニルヴァーナ」やマリリンマンソンのブレイクなどの影響など細かく言えば更にもっとあったのだと思う。伴って歌い方のバリエーションも増えた。特に注目されたのがリカットされたシングル「Hi-Ho」。それまでの彼のイメージないし「ヴィジアル系」と言えば「黒」「赤」「灰色」などモノトーンかはっきりとした暗めの色だったのが、この曲ではサンバのリズムに乗って脳天気に「ハーィホーゥ」と歌われ三原色の似合うカラフルなものに。そんな自分も当初は「これはちょっと…」と受け付け難かった。

全16曲、最小限の人数と時間で作られたというこのPSYENCEは未完となる次作”Ja,Zoo”を合わせても異色の作品。この頃はもうイメージ的にもスタンス的にも「Xのhideのソロ」ではなく、「Xに参加しているソロアーティスト・hide」という感じになっていた。バリバリに作品をリリースをしたりツアー回ったりするだけではなく、レーベルの設立や関連のイベント、コンピレーションCDのリリースや世界デビューを予定していた別バンド"Zilch”の活動などなど。いくらレコーディングで停滞してるからと言って世界デビューを控えている母艦(X)は大丈夫なのかなと懸念していたけども(実際各々のソロ活動が解散の要因の一つでもあったと後にYOSHIKIは発言)。

そして翌年、Xは解散。XのラストライブではMGシェイプの最終形態で、且つhideの最大のイメージにもなる「イエローハート」をメインにノーマルチューニング曲で使用された「グリーンハート」が登場。

f:id:ninto_nakahara:20180502104215j:image

Burny MG-X "Yellow Heart"

後期のメインモデルで96年末のDAHLIA TOUR FINALで初登場。

 

f:id:ninto_nakahara:20180502104219j:image

Burny MG-X "PSYENCE"

96年末のDAHLIA TOUR FINALで初登場。

夜光塗料で発光し、ドロップDチューニングである"Scars"演奏時に使用された。

 

hide with spread beaverとしてリリースされた3部作「ROCKET DIVE」「ピンクスパイダー」「ever free」はライブで披露された事はなく、歌番組などでのプロモーションではギターを持つ事はなかったので結果的にXのラストライブがギタリストとしての最後になってしまったが(例外としてROCKET DIVEのMVの中でJG-customを使用している)、MGから離れ新たなシェイプのモデルを開発中だったらしいので(そのギター製作の打ち合わせがあの運命の日(98年5月2日)だったらしい)残念でならない。

 

もしあの日が別の98年の5月3日を迎えていたなら(コ・プロデューサーのINAやspread beaverが作ったものとは違う)本来の"Ja,Zoo”を引っさげ、新しいギターで7月からツアーを回り、マリマンとのジョイントライブをZilchと共に行って…と追憶してしまう。

「チャートが壊れる瞬間っちゅーのをちゃんと確認したいよね。当事者としては」

ソロアーティスト・hideが日本のマーケットを如何に壊して新たに作り上げていくか、そしてその先で海外でどういう展開をしていくか本当に楽しみにしていた。あの当時それが出来る能力を備えそこに意識的だったのはきっとhideだけだったと思うから。

「なんちゅーか、洋楽コンプレックスの逆?なんって言っていいか分からないけど、そういうのが逆に海外では武器だなって」

 

あれから20年が経ったけどあらゆる面でhideの様なアーティストは現れていない気がする。今はあの頃と状況も違うし、それは仕方の無い事だとしてもそれでもこれからhideを超えるようなアーティストが現れる事に期待してます。壁が崩れる瞬間は必ず来ると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

mellow waves /Cornelius

f:id:ninto_nakahara:20180416095228j:image

Mellow Wavesリリース時に出たコーネリアス関連本。 

 

2017年に出たコーネリアスの11年振りの新作。前々作「POINT」から前作「SENSUOUS」が5年掛かっていたからそれぐらいかもうちょっと掛かるのかなと思っていたし、2012年にCM4が出たからもうそろそろかなと期待していたけどまさか11年も空くとは思っていなかった。

その間にもYMOのサポートやらsalyu×salyuのプロデュース、攻殻機動隊のサントラ、NHKの番組「デザイン・あ」の音楽制作やMETAFIVEでの活動もあったにせよ、「まさかもうCornelius名義でアルバム出さないのか??」とすら訝しんでいた。それぐらいのブランクだった。

10年代にどういう音を出すのか興味があったけどもう20年代になっちゃいますよ。って事は10年代最初で最期のアルバムになるんだろうな。

 

かつてのPOINTが「点」をテーマにしていた作りに対し今作は「揺れ(wave)」。

 

 



先ずは先行で公開、アナログカットもされたアルバムの1曲目「あなたがいるなら」。作詞は元ゆらゆら帝国坂本慎太郎氏。6分もあるこの曲の聴きどころはなんと言ってもリズム。ツィッターなどでも話題になってたところだけど一聴すると「変拍子?」と思うぐらいドラムの拍と曲の拍が合っていない。最初はドラムはリズムというより装飾的な役割で適当に叩いてるのかなと思ったけどドラムはドラムでちゃんと拍を取って聴こえるから変だなと思ってるいると、なんとこのドラム曲の拍と綺麗に半拍ずつずれながら進行している。DAW(コンピューター)上でならドラムのトラックだけを半拍ずらして再生させればいいだけの話だけど、これを人力でやるとなるとかなり大変だ。しかもテンポも遅いから余計にリズム取りにくいし。これ、ちゃんとライブでやるのだろうか、いや、やるんだろうなと思っていると先日アメリカのネット放送番組かなんかでの演奏映像が公開されてて(後ほど動画貼ります)やっぱやったんだ、すげぇなってちょっと笑ってしまった。メロディもゆらゆらしてるような拍の取りにくいものなのにドラムもこれじゃ本当に演奏は大変だろうなぁ。

そしてもう一つはややブルージーなギターソロ。でもテンポやバックのオケのせいでそうは聴こえにくい。ギター自体ももろブルージーってわけでもないしね。

  

次曲は「あなたがいるなら」と同時に先行公開、アナログカットもされた「いつか/どこか」。



いつものコーネリアスらしい、アルバム中唯一激しく歪んだギターが聴ける(そう言えばPointの”I hate hate”やSensuousの”Gum”のようなメタル系路線の曲は今回は収録されず)。

この曲も拍が取りにくく、メロディに対する歌詞の譜割りも変なところで切られていたりして思わず「(宇多田ヒカルの)オートマチックかいっ!」と一人突っ込んだり。

 


Cornelius 『いつか / どこか』 Sometime / Someplace (Live)

 

このアナログ盤にはB面にアルバム未収録でこれまた坂本慎太郎氏作詞の「悪くない、この感じ」が収められている。まだ未聴なので凄く気になるところ。

 

「未来の人へ」はこれまた坂本慎太郎氏作詞の歌モノ曲。違う人の言葉で歌うコーネリアスってのも誰かのカバーを歌っているように聞こえて少々妙でもある。あとこの曲はアコギ一本でもっとエモーショナルに歌えばフォークとしてなかなか良さそうな感じがする。groovsionsが手掛けたMVも素晴らしく、今作のMVの中で一番好きです。

 


Cornelius 『未来の人へ』Dear Future Person

 

“Surfing on Mind Waves pt2”は攻殻機動隊のサントラに入ってた曲のバージョン違いで、ドローンという一つの音が途切れずずっと続くインスト。サントラの方は映画に合わせて暗めな感じだけどこちらのバージョンはなんとなくドリーミーな仕上がりに。

サントラ版のpt1

 

今作一番のポップトラック「夢の中で」。MVはgroovisionsによるユニークな映像。全般アニメーションで本人は出てこない。

 


Cornelius 『夢の中で』 In a Dream

音はイントロ部に10年代のトレンドの一つであるchill wave〜vapor wave風味な音処理がなされ、全体的な構成はヴァース/ブリッヂ/コーラスとしっかり“ポップソング”として作られていて、ヴァースは休符を使ったカクカクしたよくベースラインに使われていそうなメロ、ブリッヂでは「心拍数は上昇中」「野生生物減少中」「深呼吸で調整中」など韻を踏みつつ、コーラスでは広がりのある展開へ…と思いきやコーラスにあたるところの最後はまたブリッヂのメロディが出てくる。となると構成的にはヴァース/コーラス/コーラス(2)って捉えた方がいいのかも。曲調としても音色としても前作(Sensuous)に入ってそうな感じ。

リズムも普通(スネアが2拍4拍に入ってる4拍子)ここまでちゃんとしたポップソングってのもかなり久々だし、このアルバムは全体的に地味で淡々(正にメロウ)としてるからこの曲があることでいい清涼剤的な効果をもたらしていると思う。曲順も丁度アルバムの真ん中に配置されてるところからもそういう意図が汲める。

 


Cornelius - In a Dream (remixed by Haruomi Hosono)

 

 

因みにその次に切られたアナログ盤としてリリースされ、B面にはこれまたアルバム未収録(iTunesでの予約販売限定ボーナストラック)の「夢の奥で」という曲だけど、こちらはYouTubeでMVが公開されている。

 



幼少期の本人だと思うけど曲がトラウマチックでちょっと怖い。

 

 

ここからはアナログで言えばB面であるアルバムの後半はこれまた拍子の取りにくいオルガン系とギターのフレーズから始まるミニマルな歌モノ「Helix/Spiral」。リミックス映えしそうな曲。


HELIX / SPIRAL - LIVE @ LIQUIDROOM 7/12

 

今作中最も古い曲らしい「Mellow Yellow Feel」は懐かしい炭酸飲料水「メローイエロー」を思い出してしまう。

f:id:ninto_nakahara:20180427192020j:image

(ドノヴァンの”MELLOW YELLOW”もイメージしたのかな?)

 

ゲストボーカル(LUSH)がメインを取る「The Spell Of Vanishing Loverliness」。何となく曲調とゲーストボーカル参加って点で前作の「Omstart」に近い印象。


Cornelius - The Spell of a Vanishing Loveliness

 

POINT時期の作風っぽいアコギを使った「The Rain Song」と続き、インストの「Crepuscule」でアルバムのエンディングへ。

アルバム最後の曲は毎回如何にもクロージングって感じの曲で閉めますね。

 

 


変則的な構成でのスタジオライブ映像。

 

全10曲で40分。昔で言うと46分テープに綺麗にA面B面入るコンパクトさ。それは本人もかなり意識していたとの事。

攻殻機動隊での坂本氏への作詞の依頼、「METAFIVEにアップテンポの曲を提供したから今作にはそういう曲は除外した」という点でも結果的にSENSUOUS以降、2010年代の集大成とも言えなくもない内容のアルバム。作風としては20年前のFANTASMAと比べるとかなり変化で、老いたというか大人になったというか時間の経過を感じさせる(そう言えばMellowって円熟って意味もあるしね)。

ただインタビューなどで「久々に歌モノがやりたくなった」と発言していたのでてっきり「1stっぽいソングオリエンテッドなアルバムになるのか?!」「今更フリッパーズ回帰みたいな事してもなぁ」とちょっと懸念していたけどさすがにそれはなかった。初期の頃の曲はライブでPOINT以降やってないと思うし、今あの頃の曲やるのも本人としても恥ずかしそうだよなぁ、なんて思うし。

 

「あなたがいるなら」然り、「いつか/どこか」や「未来の人へ」など相変わらず人力変拍子バンドとしても健在ではあるものの、Mellowがテーマだけあって今作は「静」の要素が強い作品だったので次作ではまたガンガンギター弾いて「動」なコーネリアスが聴きたい。特にMETAFIVEの”DON’T MOVE”のコーネリアスバージョンなんて聴いてみたいなぁ。この曲のギター、音やリフ含めてめちゃくちゃかっこいいもんね。

 



最後にオマケで自前の「夢の中で」のインストカバーを。オリジナルの音を使いつつ、ドリーミーって事でI am robot and proud風味のフレーズやヒップホップなどでよく使われる軽めの電子スネアの音などで作りました。初めて聴いた時に「お、カバーしたいな」と思わされたのはやっぱりアルバム中一番ポップで構成もしっかりしているからだと思います(バンドでやるならやっぱり「いつか/どこか」ですね。難しいけど)。逆に「Helix/Spiral」はリミックスしたいなぁ。挑戦しようかな?

 

 

globe / globe

f:id:ninto_nakahara:20180417033152j:image

 

今日は96年、小室哲哉絶頂期に出たglobeの1stアルバムについて。globeは前年にシングル”Feel Like dAnce”(何故aだけが大文字なのか未だに謎。avexのa?)でデビュー。ドラマのタイアップもあったにも関わらずシングルのジャケは丸い赤い玉、MVやアー写すらなくラッパー+ボーカルと小室哲哉参加ののユニットという情報のみの謎めいたユニットとして売り出す。ハイの効いたその歌声から「trfのボーカルなんじゃないか?」と噂され話題になっていたのも未だに覚えている(でも僕個人は全然違うじゃんと思っていた)。

 



デビューと同時期に行われていたa-nationの原型である「TK Dance Camp’95」で初披露されたけど、暫くしてその時のライブ映像が解禁されるまではボーカルがどんな雰囲気なのかとか本当に謎であったし、正式なMVも1stアルバム後の”Is this love”まで作られる事はなかった。恐らく当時チャートを席巻していたZARD大黒摩季などのBeing系アーティストが使っていたプロモーションの仕方を少し真似たのだろう。

その全貌が明らかにされるのは同年末、3枚目の”SWEET PAIN”から”DEPARTURES”がリリースされる頃。徐々に歌番組にも出演するようになりセールス成績も”Feel Like dAnce”のオリコン3位を皮切りに次作”Joy to the love(globe)”では1位、続く”SWEET PAIN”の2位と順調に続いていく。

Joy to the love”はこの頃小室が執心していたJungleを下地に作られている(シングルのB面にはより特化した”Jungle Mix”収録)。この年だけでもあの有名なダウンタウンの浜ちゃんとのユニット”H Jungle with T”やそのダウンタウンの別音楽ユニット「GEISHA GIRLS」にもジャングルなトラックを提供、内田有紀の”Only You”(とそのシングルのB面もジャングルMIX)、安室奈美恵の”Chase the Chance”のジャングルMIX(アサヤンで滅茶苦茶使われてたあれ)などあたかも自分の専売特許かの如くジャングルづくしだった。元々は車のCMに作られるもクライアントから没にされ新たに曲を書き下ろした後やっぱり元の曲でと二転三転したらしい(因みにその時新たに書き下ろした曲が華原朋美が歌うことになる”I BELIEVE”)。この模様は当時放送されていた小室のドキュメント番組で確認できる。



 

さて、元々ラッパーとボーカルのユニットという構想は当時日本でも売れていた”2 UNLIMITED”を参考にしたと小室哲哉本人も言っていた。本家の方もダンスビートにソウルフルな女性ボーカルと黒人系のラッパーの組み合わせで(※当時Green dayの”Basket case”と共に”No Limit”や”The Real Thing”がよくボーリング場などのMVジュークボックスでガンガンかかりまくっていた。今みたいにYouTubeどころかネットがない時代にMVを観ようと思ったら1曲100円でアミューズメント施設にあった映像ジュークボックスで視聴するしかなかったのだ)、世界規模で売れに売れていた。

 

f:id:ninto_nakahara:20180417030443j:image

 在りし日の2 UNLIMITED。

 

小室自身は勿論、ラップなどしたこともないモデルのマークパンサーをラッパーとして引っ張り出し、オーディションで発掘したKEIKOを加えて「オレンジ」というユニットとしてデビューさせようとしていたらしいが、そこに小室哲哉も加わるようになり「globe」と改めてデビュー。一応ラッパー+ボーカルというスタイルは取り入れているものの、曲自体は全然ポップス。

実際Feel〜はAメロはラップで構成しているものの、BメロはいきなりAマイナーの哀愁のあるメロディ、大サビでは小室の伝家の宝刀である転調で盛りに盛り上がる。ダンスミュージックって一定のビートで大袈裟な展開もなくただひたすら進行していくのものであるのに対し、これは構成から何からただのポップスである。この曲に限った事ではないが小室のいうdAnceってダンスミュージックのダンスではない。まぁそれだと日本じゃ売れないしそれはそれで面白かったりするんだけども。

 

そして年が明けた元旦、遂にジャケットにメンバーの顔が登場した”Departures”が発売される。ラップを抜けばこの曲もサビとAメロしかないシンプルな構成で、Aメロはペンタトニック風のスケール+シンコペーションのメロの繰り返しで単調であるのにも関わらず、それが切なくてかなりの美メロ。この曲はサビよりもAメロである。

コード進行もD♭→E♭→A♭(Fm)と簡素。サビもイメージの割にはそんなに動かない。さらに言えばAメロがFmで終わるのにサビもベース音がFで始まるので何かサビに来ても抜けきれないというか展開が地続きみたいに感じてモヤモヤする。さっきも書いた通りこの曲はサビよりAメロと言ったのはここも理由の一つ。JRskiskiのCMソングという事もあり「如何にも冬」ってイメージなアレンジと相まって名曲大決定、200万枚をセールスしぶっちぎりの1位。


globe - DEPARTURES

前年のtrfが記録した3枚連続シングルリリースで全てミリオンからのアルバムが200万枚って前例があった故にこの次に出るとされるアルバムは物凄いセールスになるんだろうなぁと誰もが思っていたはず。

余談だけども当時誰も指摘してなくて個人的に面白いなと思っていたところはFeel〜からFREEDOM(正確にはcan’t stop fallin’in loveまでは微妙に使われている)までの全シングルで必ずファルセットを使うパートがあった事。小室本人が意識してそう歌唱指導したのかは不明だけど、出そうと思えば出せるはずの音域で敢えてファルセットを使って歌うところに他のプロデュースアーティストにはないユニークさがあると感じていた。

 

そして満を持してリリースされたアルバム「globe」は初動売上だけで200万枚を突破し、最終的には455万枚のセールスを記録したらしい(自分もその1/4550000でした)。

蓋を開ければ結局「2-UNLIMITED云々」は単にスタイルにしか過ぎず、年に1枚出す小室哲哉その時の集大成(オープニングには前奏のovertureチューンにピアノソロ曲収録など)、乱暴に言えば前年のtrfの「dAnce to positive第2弾」って感じ。まぁそれも商業的に狙ってたところだし聴き手だって誰もがそれを望んでいたからその結果があの数字なんだと思う。漏れなく収録された全シングルも変なリミックスはせず、アルバム曲としてもシンプルなピアノとボーカルだけで最後はこれでもかと転調しまくりで盛り上げる「Precious Memories」や小室得意の軽快な鍵盤のカッティングが印象的な「GONNA BE ALRIGHT」、ハイトーンなボーカルでポップな「Regret of the day」、少し引いて通受けを狙ったようなマークパンサーメインの「Music Takes Me Higher」など。個人的にはtrfのdAnce to positiveにあったピアノ曲「overnight piano dream」に続くようなラストのピアノインスト「LIGHTS OUT」がもっとドラマチックなものだったら良かったのになぁ、とそこは不満だった。

“FRERDOM”みたいにちょい社会派的な歌詞もあるけど今作はとことんポップ。次作「FACES PLACES」から取り入れることになるオルタナティブロックの要素に伴って歌われる歌詞の世界観もダークなものになっていくのに対しこのアルバムは終始普遍的というかそこら辺にいる普通の女性(もっと言えば20代くらいのOL)の日常や心情が歌われている。小室もロン毛になったりKEIKOなんてまんまNO DOUBTのグェン・ステファニーみたいな金髪の髪型とメイクになっていくのに対してこの頃までのKEIKOはどこにでもいそうな普通の女性って感じだったし。

特にGONNA BE ALRIGHTの主人公の年上のお姉さんやその曲調は、リリースと同時期に放送されていたキムタクと山口智子主演のドラマ「ロンバケ」の雰囲気にもリンクしたり、regret of the dayや他の曲も何処と無くテレビか作るあの時代の雰囲気とマッチしてたように感じていた。テレビから流れてくる「東京」の情景や生活臭というか。

個人的にも今でもglobeって1stの頃にあった「普通っぽさ」が好きだなぁ。小室作品の中でも"Feel Like dAnce”と”DEPARTURES”はベスト10に入るくらい好きだし、後の作品にはない軽さもいい。まぁ色々他にも言いたい事はあるけれど(特に歌詞)そこはまた後々書こうと思います。

 

では初期のインタビューとスタジオライブ映像で締めたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fantôme/宇多田ヒカル

 

(2018.5.5 updated)

 

f:id:ninto_nakahara:20180308143835j:image

 

2016年にリリースされた宇多田ヒカルの(UTADA名義の海外版も含めると)8作目にあたる復帰作。今作はカットも含め初のシングルCD発売無発売。時代の流れとは言え復帰ということでの話題性もあるし先行配信された2曲(「花束を君に」と「真夏の通り雨」)はシングルCDとして出すと思っていたので意外だった。

しかし考えてみれば活動休止直前のベスト+ミニアルバムの時から新曲の数曲は先行配信はしていたけどシングルCDとしてはリリースしなかったっけ。

 

アルバム全体を通して聴いた感想は先ず「地味だな」という印象。アップテンポな1曲目の「道」以外はスロー〜ミディアムテンポでアレンジも地味でメロウなものが多い。そんなアルバムが嫌なわけでは全然ないんだけど、アレンジというか音色自体も色彩がなくて正にアルバムジャケットが示す通りモノクロな感じが支配している。明るめな曲もあるんだけどアレンジや音色や丸っこい感じのミックスの音のせいかやっぱり地味目。このアルバムが亡き母に捧げるとして制作されたものらしいからそれはそれで納得出来るんだけど、以前のように多彩な色があるようなサウンドが聴きたかったなぁ、と。

 

という事で曲レビューをします。

 

 

1.道

 

宇多田ヒカルのアルバムオープニングらしい曲。それまでも彼女のアルバムの1曲目はアッパーチューンが定番(前作のHEART STATIONはFight The Blues、ULTRA BLUEはThis Is Love、など)でその定石から外れていない。というかこのアルバム全体を通しても唯一のアッパーチューン(故に物足りなさも感じる)。

休符を多用して少しつんのめるようなリズムのイントロから始まり、そのサンバのようなリズムがBメロまで続いた後、サビではそのリズムがメロディと相まって爆発するように盛り上がっていく。が、サビでも「わ、たしの/こ、ころの〜」と拍頭から効果的に休符を多用し(このような休符を使って歌詞をぶつ切りに歌う手法はデビュー曲であるAutomaticから健在)、後半では「It's loney,It's lonely,It's lonely...」と呪文のように繰り返されるのが相対的な効果を生んでいる。

 

2.俺の彼女

次曲では一転、Am/G/F/Emと下降していくジャジーなベースが印象的に響く大人っぽい曲。歌詞の内容はヴァースで見栄を張る男とコーラス部ではそれに釣り合うように努める彼女の気持ちが歌われている。だけど段々それは互いに無理をしていると歌われ、最後のコーラス部ではドラムとストリングスが加わった混沌としたサウンドスケープの中「ちゃんと分かり合いたい」と歌われる(フランス語の部分は分からないので省きます)。もっと分かり合いたいと願う彼女に対し、「俺には夢がない〜いつしか飽きるだろうつまらない俺に」と諦めを吐く彼氏。この後この二人がどうなったか気になります。

 

3.花束を君に

 

 

アルバムに先攻して発表された2曲の内の1曲。NHKドラマの主題歌や復帰の話題もあって至るところからこの曲が聴こえていました。アルバムが出るまではと思って自分から進んで聴かなかったけど、それでも1コーラス歌える程流れまくってましたね。

その先攻発表された2曲は直ぐに亡き母親を歌った曲だと分かるような内容になっていて、片方はミディアムのバラード的な曲だから割りとストレートだけどもこの曲はホ長調の明るめな曲調だし、歌詞の内容からも時間が経って前向きに母の死を捉えてるのかなという印象です。アレンジもストリングとバンドサウンドを使ったシンプルなもの。「どんな言葉並べても」のとこのメロディがGm#からG#になるところが個人的には好きです。

 

4.2時間だけのバカンス

 

 

 

アルバム発売の直前に発表された椎名林檎との共演も話題になった曲。デビュー時にEMIガールズとしてステージで共演しつつ、椎名林檎のカバーアルバム(唄い手冥利/02)で「I won't last a day without you」のカバーでもデュエット経験済みとは言えオリジナル曲での共演はこれが初。MVは百合っぽい雰囲気も話題になりましたね。近年のMVにしてはお金かかってるなって印象。曲は...普通ですね。うーん。

 

5.人魚

ハープのアルペジオが綺麗な曲。アレンジ次第ではR&B/Soulの曲にもなりそうな感じがします。アレンジと言えばこの曲が面白いのは演奏がハープとドラムのみなんですよね。そう、ベースが入ってないんです。彼女の歌でベースがない曲と言えば他にもStay Gold(08年/HEART STATIONのB面、同名のアルバムにも収録)もあるので珍しくはないっちゃそうなんだけど、向こうはピアノや打ち込みリズムの低音があるから「もしかしてちょっと入ってる?」くらいの錯覚になるけどこの曲は終止音が軽いんです。構成もシンプルな分、普通はベース入れたくなりそうなところを、というかこの世にあるポップソングの殆どにはペースがはいっていないのは中々ないぐらいで(ベースレスのポップソングで他に有名なのはプリンスぐらいだと思う...多分)、ある意味実験的っちゃ実験的。この人結構こんな面白い事をしてくれます。

 

6.ともだち  with 小袋成彬

全曲から一転、アコギのフレーズにベースが動き回る曲。途中からホーンも加わり、サビではホーンが小袋成彬のコーラスと共にメロディを彩ります。この曲の面白いなと思ったところは2番で「胸の内を明かせたなら/いやそれは無理」の「いや」のところで、ほんとに「いやいや...」って感じで歌うところ。聴いててちょっと笑っちゃいました。この曲の最大の話題は歌詞でしょうね。同性愛的な内容でちょっと屈折したラブソング風。屈折したというのはあくまで「普遍的な」リスナーの感覚で、その反対側にいる同性愛者からしたらこの歌詞こそが「普遍的」。そしてちょっとエグかったりもするけどそれがリアリティだったり。色々言われてる事だけど日本のトップシンガーがこういう内容を歌うのも時代なのかなって感じます。

 

7.真夏の通り雨

 

 

先攻で発売された2曲の内のもう片方の曲。Dm#のピアノの響きから始まるこの曲はなんと言っても歌詞が素晴らしい。DEEP RIVERを思い起こすようなちょっと堅い言葉に豊かな言葉の表現。「花束を君に」が前を向いて別れを想う曲ならばこちらはその逆というかまだその悲しみの渦中で歌われているように言葉が紡がれている。

 

「勝てぬ戦に息切らし/あなたに身を焦がした日々

 忘れちゃったら私じゃなくなる/教えて正しいサヨナラの仕方を」

 

辛い過去さえも今の自分を形成しているものでありそれを否定したくても、そうしてしまったら今の自分さえも否定する事になるジレンマにどうして良いのかと問うているように自分には響いたし、

 

「夢の途中で目を覚まし/瞼閉じてももう戻れない」

「思い出たちがふいに私を乱暴に掴んで離さない」

 

戻れない過去や喪失感がこの歌全体を支配しているけれど最後に

 

「さっきまであなたがいた未来/たずねて明日へ」

 

と少し前を向いて終わるのが救いになっている気がする。そしてアウトロのコーラスが「ずっと止まない雨/ずっと癒えない渇き」と前を向いた後の余韻を響かせている。

この曲はこのアルバムでは唯一ドラムが加わっていないのも特徴的。

 

8.荒野の狼

少しUTADA名義の"poppin’“に近い印象を受けた曲。でもサビは激し目。今回のアルバムはハンドクラップとかそれに近い軽めな打ち込みの音が多い。

 

9.忘却 feat.KOHH

 

 

それまでの彼女のアルバムにあったインストのInterlude的な役割をしている曲(前作で言えばGentle Beast Interlude、全前作でのEclipseにあたる)。リズムもなくシンセの白玉系の音と共に心臓の鼓動音が印象的なデカダンスっぽいアンビエントチックなこの曲では初のラッパーとのコラボレーション。ラッパーとの共演とは言えブラックミュージック的なそれではなく、アンビエントチックなトラックのせいで実験的に響く。

 

 

10.人生最高の日

いきなりサビから始まる(桜流しをボーナストラックと捉えれば)ラストの曲。前作の「虹色バス」、その前の「Passion」とか毎アルバムのラストトラックは好きな曲多かったけど今回はあっさりしててちょっと肩透かしを食らった感じ。プレイタイムも3分10秒とアルバム中最短。コード進行も一小節ずつF→Gm→C→Fと単調でサビとAメロは基本同じ。でもただ繰り返すんじゃなくて2回目はDm→B♭→C→Fとテンションコードにしたり、テンションを戻したりして微妙に変化させてる(じゃないと相当ぺったりとした響きになる)。Bメロはそれに近い流れで半拍ずつ進行し、Aメロ/サビのFに対しDmとマイナーからの響きにしてここも変化をつけてる(このBメロはメロも含めて好き)。それにしてもあっけない曲。

 

11.桜流し

 

 

最後は活動休止中の2012年にエヴァンゲリオンのために書き下ろされた桜流し。制作時期も違うしちょっとボーナストラック的な感じ。しかし偶然とは言え前記したようにこのアルバムが「亡き母へ捧ぐ」というテーマから外れていないところが凄い。というのも実際にはエヴァンゲリオンの世界観を通して作詞されたものだし、それにこの曲が発表された時点では母親の藤圭子は存命だったんだけど、

 

「もし今の私を見れたならどう思うでしょう」

「あなたなしで生きている私を」

 

「もう2度逢えないなんて信じられない」

「まだ何も伝えてない」

 

まるで亡くなる事を予期して書いたように聴こえるのは...

かつて鬼束ちひろがinfectionという曲を発表した直後にアメリカで9.11の事件が起こり「9.11を予見して書いたような云々」と言われた事に対し、「書いた歌詞が実際現実に成るってのはよくあることだから別に驚かなかった」と本人が言っていたけど、何か書き手の勘と偶然が働いてそうなるのか、作品を書いた事によって実際にそうなってしまうのかは分からないけれど...。

この曲はちょっと構成が変則的で始めはピアノと共に歌われ、段々とストリングス(と薄く歪んだギター)が加わり、後半は徐々にドラムが入ってくるんだけどこのドラムのリズムの取り方が少し変わっている。ちょっともたりつつリズムを刻むというよりは歌を盛り上げるための装飾的な役割に回っている感じ。

 

全体を通して聴いてみると作曲家、歌い手として年を重ねて成熟しつつある大人になった宇多田ヒカルという感じ。今作は特に派手なアレンジもなく全体的に尖った音もなく丸びで柔らかいメロウなサウンドだったけど、やっぱりもう少しカラフルに遊び心もあると良かったなぁ。

 

 

因みにこのアルバムは日本は勿論のこと、スロベニアフィンランド、アジア7カ国のiTunesチャートで1位を獲得、アメリカやカナダ、オーストラリアでは10位以内にランクインし、特にアメリカのiTunesチャートでは瞬間最高6位を記録。特に何の戦略もなく、しかもほぼ日本語で歌われたこの作品が、かつてUTADAとして向こうのマーケットを意識して作ったアルバム2作よりも国際的成功を収めた事実は皮肉ではある。確かにUTADAとしての1作目(Exodus/04年)の時期と比べるとアニメやファッションなどを中心に日本の文化や音楽が海外で受けたり(彼女自身キングダムハーツエヴァンゲリオンの主題歌を歌っているし)、YouTubeで気軽に過去の作品が聴けるようになった現在とでは全く比べ物にならないほど環境や状況が違うとは言え、本人やスタッフはもとより我々日本人ですら予想外の海外のリアクションに凄さを感じつつも、個人的には作品の内容だけに限れば何故海外で受けたのか謎なところではある。そして同時に過去の作品と比べて「ソングライターとしての実力はこんなもんじゃないのに」と歯痒さも感じてしまう。ともかくこの流れの結果は今年初夏に出る次作ではっきり現れる事になると思う。

 

 

初めてアルバム全曲レビューをしてみたけどかなり大変だった(汗。次のアルバムレビューはサクッと書いていこう(じゃないと時間がかかり過ぎて溜まってる記事が書けない汗)。

 

INORAN 「想」

 

f:id:ninto_nakahara:20171105125014j:plain

 

今からちょうど20年前の今頃、INORANのソロデビュー盤が出た。

 

 

 

 

97年は数年でいっきに巨大化した母艦バンドを一旦止めてメンバーそれぞれがソロデビュー、先陣を切ったボーカルは次々に大ヒットを連発し、年末に出したアルバムは300万枚という化け物級のセールスを記録。ベーシストはゴリゴリのオルタナティブロック、片方のギタリストは4HEROなどのドラムンベースアンビエント系のアルバムを出す中、当のINORANDJ KRUSHと組んでヒップホップへと接近した作品を出す。

他2人の作風はそれぞれの音楽的バックボーンやキャラクターから察しがつきやすかったものの、最初はINORANのソロの音が想像つかなかったのを覚えている(元々ギターソロとか弾きまくるタイプの人じゃないから)。母艦バンドの彼原曲の作品から「少し実験的なアンビエント風のインストとかかな、まさか歌うとかないだろうし」と思っていたところで先行シングル(「想」)を聴いて「なんじゃこりゃ」とズッコケそうになった。明らかに歌った事のない拙いボーカル(それを補正というか誤魔化すように加工された声で歌ってる)、盛り上がりのない曲調...。当時一聴した印象は「つまらん」だった。

 

(97年版の音源がなかったので11年の新録版を)

※ちなみに14年後に出したリマスター盤ではこの曲だけ再録されていて、ボーカルも上手くなってる。

 

ただ、大人になってから振り返ってみるとソロ活動とは言えあんな巨大バンドメンバーの作品がインストやゲストボーカルだけでは「商品(セールス)的」にどうかって懸念もあっただろうから、本人の意向ではなかったかもしれないにせよ、サービスで本人歌唱の曲をという要請がレコード会社からあったんだと思う(大人の事情ってやつですね)。

 

とは言え彼のソロ作品には関心を持っていた。「EDEN」期の「Recall」や「Rejuvenescence」「Rain」「Claustrophobia」など好きな曲は彼が原曲作曲のものが多かったし(バンドのキャリアの中で一番好きなアルバムが「EDEN」だったけど今回調べてみてこのアルバムがINORAN原曲作品が多かったのにびっくりした)。「BELIEVE」や「ROSIER」などのキャッチーでシングル向けの作風とは違い派手さはないけどとても癖のあるメロディ、何処か廃退的な雰囲気のある作風で、よく考えるとLUNA SEALUNA SEAたらしめているのはINORANであのバンドの核なのだと感じた。

 

その1ヶ月後にアルバムが出た。シングルみたいに本人歌唱曲メインとかならキツイぞ…と訝しげに聴いた感想は…

 

「これ洋楽じゃん...」

 

本人が歌っているシングル曲ともう1曲以外はすべて英語、それ以上にラップが入ってて頭の中は「?!!!??!?」状態。本人歌唱曲がないのもゲストボーカルで洋楽風なのも「なるほどね」と許容内ではあったにせよラップは全くの変化球で当時の自分は「変なアルバムを買ってしまったなぁ」という失敗感が拭えなかった。バンドを活動休止して一気にそれぞれがソロ活動を始める中、受け手からそれぞれに対して「1/5のLUNA SEA」というものを期待されていただろうし、そういう意味では相方ギタリストのソロ作品の方がまだ「ロック好きならなんとか許容範囲」的な感じだったと思う。

でも最後を飾るもう1つの日本語の曲「人魚」は結構好きだったな。

なのでこのアルバムはこの曲ってイメージが強かった。

 



アコギのアルペジオアコーディオンのトラックにけだるい女性ボーカルが乗っかる3連符の曲。このボーカル、素人っぽいと思っていたんですけど今回調べてみたら一般人らしいですね(Ri-aさんという方らしいです)。

この曲はファンの中でも人気曲らしく、17年発表のセルフカバーアルバムでなんと本人歌唱で再録されています。

 

 

人魚

人魚

  • provided courtesy of iTunes

 

 

という事で当時買ってから何年も放置してたんですが、数年前にこのアルバムを部屋から見つけたので聴いてみたんです。いや、いいアルバムでした。90年代末期の空気感があって音的にも古さは感じるところもあったけど、それもある意味レトロ的に気にならなかったし、それ以上に曲がよかった。当時気づかなかったけど意外とギター弾いてるんですね。相方ギタリストのソロと近い部分はあるものの(アメリカというよりヨーロッパな音とか)、個人的にはこっちの方が全然好きです。

特に5曲目の「FAITH」という曲。

 

ネット上に音源がなかったので冒頭1分間の部分だけ

 

これは...個人的人生のベストに入れてもいいと思える程名曲。女性ボーカルが歌うメロディと印象的なギターフレーズ(特にCaugの響きがたまらない)、ウッドベースのアレンジがもの凄くけだるく、ちょっと言葉にし難いくらい美しい。というかINORANってこんな曲書けるのか。凄いな。

 

KillBill vol.2にも使われたこの曲を思い出した(40秒辺りから再生して下さい)

 

母艦バンドでもメインというよりは変則的というかB-Side的な変わった曲を書くのが得意だったし、結果的にこういうアルバムが出来たのももの凄い意外とかではなかったにせよ、予想よりもっと振り切ったものだったから本当に驚いたものだった。実際例の本人歌唱のシングルを抜かした形で覆面名義で出していたら絶対誰もビジュアル系アーティストのソロ作品だとは思わなかったと思うし、実際そうしていたらこのアルバムも違う捉えられ方がされていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

久々の投稿です。

前回の記事からかなり時間が経ってしまった。

春の帰郷記を書いてる途中で止まって、今はもう今年2回目の帰郷から戻ってきたところ。特別な理由があったわけじゃなかったけど、ドラムプロジェクトなどの動画作りや音源制作を優先にしていたら5ヶ月更新していなかった。それでもXやhideの過去記事のおかげで多い時には一日2〜3人の訪問者がいたりしてちょっとびっくり。

 

ninto.hatenablog.com

 

そうこうしている内に昨日7年間使っていたiMacが天に召された。なにをどうやっても正常起動しなくて、iOSの再インストールをしようとしたら「S.M.A.R.Tエラー」ってのが出て、調べてみると決定的な故障だと言う事が分かり春の故障以来覚悟はしていたお別れが遂に訪れてしまった。

https://www.instagram.com/p/BaszpM_H926/

 

一応サブ機としてMacbookを持っているし、動画編集もiPhoneでも出来るから活動する上で致命的なダメージというのはないんだけど、ちゃんとした音源制作は新しくメイン機(やっぱり次もiMacだ)に買い替えるまで休止せざるを得ない。でもこの休止を機にミックスの勉強をし直したり、ちゃんと本腰を入れてブログも書いていこうと思う。日々書こうと思っているネタも溜まっているしね。

 

 

ではまた明日!